往きて迷いし物語

もるあきがトールキン教授やPJ監督に翻弄されるブログ・『この世界の片隅に』備忘録

『この世界の片隅に』の映画が楽しみです

 2016年8月2日、BSフジにて放映された『ジャパコンワンダーランド』、「アニメとクラウドファンディングの可能性」特集内で『学園ハンサム』と『この世界の片隅に』が紹介されました。
http://www.japaconw.com/

 『この世界の片隅に』は以前から原作が好きで、作者のこうの史代先生の作品を軽めのもの(『こっこさん』『さんさん録』『長い道』、冷静に考えると道さん重かったです。)から読み進めていって、原爆投下後の広島を描いた『夕凪の街 桜の国』、特に夕凪の街の方にかなり打ちのめされてしまったのです。読んでいてとてもつらくなってしまったので、なかなか戦中の呉市での生活を描いたという『この世界の片隅に』に取り掛かることができなかったものです。
 しかし私が『夕凪の街 桜の国』を読み終えてから半年と経たない頃、2011年8月5日に『この世界の片隅に』の実写ドラマが放映されることになり、二分冊の新装版の単行本がコンビニエンスストアにも置かれたんですね。これは読むしかないのだな、と手に取り、そこからはもう一息に読んでしまいました。

 想像していたよりのほほんとした(食糧の配給が少なくて足りないのでたんぽぽの葉を食べたり、落ち葉で炭団(たどん)を作ったり!)戦時結婚の生活に好奇心が大いに満たされ楽しく、しかし戦争が確実にその割り合いを大きくしていく話であり、戦時下であろうとなかろうと人が抱く感情が描かれそれが愛しくあり、悲しくもあり、この世界の続きが夕凪の街であり桜の国であるのだな、と思いました。
 何気ない日常を過ごしている女性の内面がある瞬間に零れ落ちてくる、こうの先生のそれまでの作品『長い道』や『さんさん録』から連なるものであると思いますし、京都マンガミュージアムの「戦争とマンガ」展で拝見したような、さまざまな画材を用いた作画上の試みは以降の『ぼおるぺん古事記』のような作品の出発点でもあると思います。

 そんなこんなでとても好きになってしまった作品の情報を調べているうちにアニメ映画化が企画されていると知り、監督の片渕須直氏のコラムに辿り着き、アニメ化までの日を指折り数えながら2013年の8月に京都国立博物館で行われた『マイマイ新子と千年の魔法』(片渕監督の作品、ちなみに私が参加した翌日には監督自身も上映会に来られたとか。まだ穂の青い麦畑や白いドレスが投影されたスクリーンが夏の夜の風を孕んで揺られ、スクリーンの中にも外にも虫が飛ぶ不思議に素敵な上映会でした)の野外上映に参加するなど楽しい日々を過ごしておりました。

WEBアニメスタイル「1300日の記録」片渕須直による連載コラム
http://animestyle.jp/column/1300/

コラムの続きはアニメ製作会社MAPPAのサイトに引き継がれております。

MAPPA「すずさんの日々とともに」片渕須直による連載コラム
http://www.mappa.co.jp/column/column_katabuchi.html

 そして2015年3月、『この世界の片隅に』のクラウドファンディングが行われると聞き、すぐさまサイト登録を行い振り込みに走りました。その際、支援するのは当然としてエンディングロールに名前を載せてもらうかどうか? という葛藤がありましたので、とりあえずは名前の載らない枠での申し込みをし、後日改めて名前の載る枠の出資をいたしました。

 戦争体験のある親族から話を聞いた経験のある方たちから自分ではなく彼らの名前を載せたいという申し出があったそうですが(公式ツイッターのツイートより)この頃既に他界していた父方の祖父母から戦争の話を聞いたことはほとんどなく、そういったコミュニケーションを取ってきていない私が勝手に名前を載せるのは自己満足でしかないのかもしれない、と悩みました。もしかしたら話したかったけど私や姉に暗い話は聞かせたくなかったのかもしれないのです。孫に嫌がられるのが怖かったのかもしれないです。幼い頃には怖い話に怯えて彼らの布団に潜り込んだこともありました。ちなみに母方の祖父母は私たちが物心つく前に亡くなっていて、話したことさえありませんでした。
 しかし祖父母はいつも私たち姉妹を楽しいところへ連れていってくれましたし、色々なものを見せてくれました。彼らの家に置いてあった『サザエさん』や長谷川町子先生のエッセイ『サザエさんうちあけ話』が小学生の私に戦中戦後の生活を教えてくれたことを思い出しました。『うちあけ話』にあるエピソードの一つ二つが『この世界の片隅に』の原作でも採用されています。単行本巻末の参考文献一覧をご覧ください。
 このように色々と考えた結果、祖父母の名前ではなく彼らが私に贈ってくれた私自身の名前を載せていただくことに決めました。今でもとてもいい名前だと褒めていただくこともある、自分でも好きな名前です。

 さて『ジャパコンワンダーランド』(以下「番組」)の内容ですが、特報映像の一部と原作の紹介、映画作品のプロデューサーであるGENCOの真木太郎代表と株式会社サイバーエージェントクラウドファンディングの中山亮太郎代表取締役社長(クラウドファンディングサイトMakuake運営)のインタビューがありました。

 真木代表のお話ではクラウドファンディングの目的の二つ、資金調達とプロモーションのうち『この世界の片隅に』ではプロモーションのためにクラウドファンディングをやろうと思っていたそうですが、製作委員会がなかなか決まらないので製作現場とのタイミングが合わず、まずクラウドファンディングをやってみることになったそうです。
 やってみたらば10日足らずで目標額の2160万円を達成しファン=将来の観客の存在を確実な数字として示すことができたため、配給会社が決定し製作委員会も組織されることになったそうです。
 原作はたいへん素晴らしい作品であり文化庁メディア芸術祭漫画部門で優秀賞受賞といった客観的な評価を得ているのですが、映画に出資してもらうには、お金を出して観に来るファンはどれぐらいいるのか? という心配が製作委員会を組織する法人、スポンサー側にある、これを払拭しないといけないわけですね。いい原作と原作の良さを丁寧に再現し何倍にも引き出すいい監督が揃っていても、アニメ作品の場合はこのように困難が伴うんですね。

 番組ではファンディングのリターン(支援へのお礼)の説明もあり、主人公であるすずさんからのはがきが映されました。

 私がよく見かけるクラウドファンディングですと、これこれこういったもの・サービスを商品化するという目的に賛同して支援し、金額に応じて完成品やサービスを受け取るといった内容が多いのです。
 しかしこの企画でお礼に映画のチケットを渡されても何かが違います。一万円出資したらお礼にチケット5枚、とか? いや、これだけお客さんが来るよと証明するための企画でチケットの実売数を減らしたんじゃ本末転倒です。
 個人的には限定品にこだわるあまり、あとからファンになった人が手に入れられないような設定資料集付きのBDやDVDがリターンというのも好きではありません。設定資料集をあとから手に入れられないのはファンに優しくない感じがするんです。誰でも手に入れられるように一般書店やアニメショップで売っていてほしいのです。

 さて、すずさんのはがきに戻ります。これは原作者のこうの史代先生がすずさんとして描いたはがきが出資者の元に実際の季節と作中時間がリンクした頃に四度も郵便で届くというもうファンにはたまらない代物です。はがきは戦時中のサイズでやや色の悪い紙を使ってあり、消印も呉の郵便局の風景印という凝りよう。すずさんの絵と文章にほのぼのします。これは美術展やアートワーク集に展示・収録されるのですかね? 作品を好きなみんなにみてもらいたいものなのです。まだ美術展には行けてないのでどうなっているのかわかりませんが…。

呉市立美術館 特別展
マンガとアニメで見る こうの史代この世界の片隅に」展
http://www.kure-bi.jp/?cn=100504

 ふたたび真木代表のコメントです。支援者の望んでいることはいい作品が作られることである、との考えから「1円でも多くフィルムに使うことが最大のリターンだと考えた」「(支援金の)90%以上はフィルムに使っている」とのことです。素晴らしい!

 クラウドファンディングの成果として2015年7月に各地で行われたファンミーティングのうち広島と大阪では「冬の記憶」のパイロットフィルムが公開されました。当時、昭和8〜9年頃に広島の中島本町(現在の平和記念公園)に住んでいた方たちから監督が聞き取り調査を行い古い写真を元に絵を描いて見せに行き、細かな点まで指摘をいただいて作ったシーンですので、どうしても広島ではその方たちに見せないといけない! と仕上げたものだそうです。もちろん広島のファンミーティングには調査に協力された方たちも招待されました。私も大阪で見たこのフィルムには感動しました。幼いすずさんの動作の作画や色設定、背景と人物との調和、会場ではこのシーンのために集められた資料のフォルダも一部公開されました。

 以下に支援メンバーズ通信より画像を何点か貼ります。これらは支援メンバーズが非商用目的で映画を応援するためにブログやSNS等にアップすることを許可されているものです。

 こちらの大正屋呉服店は資料として集めた写真の他、当時近くに住んでいた方たちの手すりに寄りかかったといった証言やご家族の記念写真から描き起こした背景画になります。
 平和記念公園レストハウスで、当時の建物としては現存している唯一のものとなるそうです。

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 すずさんの動き、Gif動画なのですが見られるでしょうか。

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 こうの先生が広島と呉の空の色をしていると仰った背景画です。(こうの先生のコメントは7月23日に呉市立美術館で開催されている展覧会で行われたギャラリートーク中の発言であり、これらの画像はそれ以前に通信に掲載されたものなので、先生が展覧会で実際に見られた背景画がどれであるかは不明です)
 こういった空や海の色を実際に知っていてもらいたいと監督が背景担当の美術スタッフを取材につれてこられたそうです。

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 より多くの画像が公式サイトのスタッフルームだよりでご覧いただけますので、ぜひ。左上の新着情報のところです。サイト上部「スペシャル」の中にあります。

映画『この世界の片隅に
http://www.konosekai.jp/

 番組では続いてクラウドファンディングサイト運営の中山社長のお話がありました。
 『この世界の片隅に』の取り組みはそれまでは芸術作品のプロモーションと考えていたクラウドファンディングが「しっかりとアニメビジネスとして意味を成す仕組みなんだっていうのがわかったプロジェクト」「アニメにおけるクラウドファンディング活用の可能性をより大きく広げた」とのことで、「(プロジェクト成功の原因は)ファンの熱量を汲み取ることができたのが一番大きな要因だったのかなと思います」だそうです。
 クラウドファンディングサイトMakuakeには原作や監督のファンである支援者のコメントが多数掲載されています。
https://www.makuake.com/project/konosekai/

 特集の最後に真木代表が今の気持ちを伝えてくださいました。
クラウドファンディングがうまくいってなかったら成立していない、というぐらい賭けだった。僕らの予想を越えた反響があったし予想を越えたお金が集まったということで逆にものすごいプレッシャーを感じました。良い作品を作らなきゃいけない。クラウドファンディングで支援してくれた方に背中を押されたっていうのはありますね。おかげさまでこの秋に全国で劇場公開をすることになりましたので、ぜひ皆さんのその支援の結果を映画館で、お楽しみください。ありがとうございました」


 映画は2016年10月の公開予定です。

 最近映画を見るために和歌山から大阪まで行くことが少なくないのですが、この作品もそうなる可能性がなくはないので、最初の週末になるべくたくさん観て翌週以降の上映回数が減らされないようにしたいですし、次の週もなるべくたくさん観てなるべく長く上映してもらいたいですし、そしたら数ヶ月遅れて和歌山でも上映されるのじゃないかな…と思っています。たくさんと言っても体力やお財布の中身には限界もありますのでそんなに無理はしない予定ですが…。

 映画を観られるのがとても楽しみです!


映画『この世界の片隅に
http://www.konosekai.jp/

映画『この世界の片隅に』特報1
https://youtu.be/BF8bxTEMIpY

2016年8月11日追記

 映画の公開日が発表されました!11月12日です。映画館の数が思ったより多いので嬉しいです。関西は滋賀、京都、大阪、兵庫の二府二県! 素晴らしい! 今後さらに話題が広がってもっと多くの地域で観られるようになるともっともっと嬉しいですね。
 取り急ぎ、ポストカード付きの前売り券を買いたいです。通販が確実でしょうか…窓口で買いたい気持ちも…そわそわします。

劇場&前売り券情報
http://www.eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=548

 聖地巡礼アプリ「舞台めぐり」に『この世界の片隅に』広島と呉が対応したようです。さっそく入れてみました。早くすずさんの写真撮りたいな〜(*゚∀゚)

アプリ「舞台めぐり」
http://www.butaimeguri.com/

(2016年11月30日追記)
 アニメのクラウドファンディングに興味のある方が見に来ているようなので、記事をまとめました。

たった8日で2000万円を集めたアニメ映画「この世界の片隅に」は一体何がすごいのか? - GIGAZINE
2015年05月10日
http://gigazine.net/news/20150510-konosekai-machiasobi14/


クラウドファンディングは「映画の種」だった - 片渕須直監督がクラウドで資金を集めた理由 東洋経済オンライン
2015年05月23日(壬生 智裕)
http://toyokeizai.net/articles/-/70653?display=b


2016-08-21
この世界の片隅に』展を観に呉へ行ってきた(前半) http://momomomo1232.hatenablog.com/entry/2016/08/21/175037
 当ブログ記事より、真木プロデューサーのトークショーに参加して。


2016.11.11
この世界の片隅に」は、こうして作られた。「みんなで作る映画」を目指した、片渕須直監督の情熱 シネマズ
(斉藤 守彦)
http://cinema.ne.jp/recommend/konosekai2016111117/
 『マイマイ新子と千年の魔法』から『この世界の片隅に』上映まで全体の流れがわかります。


この世界の片隅に』プロダクションノート
http://konosekai.jp/production-note/
 簡略な年表。


映画「この世界の片隅に」製作プロセスの秘密 - クラウドファンディングの「実態」 東洋経済オンライン
2016年11月30日(斉藤 守彦 :映画ジャーナリスト)
http://toyokeizai.net/articles/-/147002?display=b