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往きて迷いし物語

もるあきがトールキン教授やPJ監督に翻弄されるブログ・『この世界の片隅に』備忘録

『この世界の片隅に』展を見に呉へ行ってきた 後半

 引き続き、呉でのてんやわんやを書き記しておきます。前半では2016年8月20日に大和ミュージアムを訪れ、呉市立美術館で行われたトークイベントに参加してきました。

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 熱気にあふれたトークイベント終了後、美術館1階の階段脇の垂れ幕とパネルすずさんと聖地巡礼アプリのARすずさんを並べて撮影したい! とスマホを操作するも、うまくいかず…。成功していた方もおられますので、焦ったのが敗因かと。パネルのすずさんもかわいいからいいでしょう(T_T)ぜんたいに落ち着きがなくて写真が下手なのです。

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 素敵な洋館なので階段の手すりにグッときますね。グッズにキーホルダーがあったらしいですがこの時は売り切れていたのかな? 映画館で買えるといいなあ。
http://www.kure-bi.jp/?cn=100535

 2階にも撮影可能なすずさんと周作さんのパネルが! 撮影可能なパネルの前には足元にカメラマークがついているので安心して撮影できます。

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 そして絵ハガキセット付きムビチケを購入しました。遠くの映画館まで買いに行くのは大変だから、こういう気の利いた販売はとてもうれしいなあ。ファン心理をわかっているし、全力で応援するぞという気概も伝わってくるというものです。


 とうとう『この世界の片隅に』展に足を踏み入れました。ツイッターなどで話題になっているのでご存知の方もいるかもしれませんが、今回の展覧会では、3冊の単行本収録原稿の全てを展示してあります。たっぷり時間を用意して挑みましょう。

 展示室に入ると、昭和一桁年代のキャラメルやチョコレートの箱が展示されていました。ファンミーティングでも片渕監督がキャラメルの値段を調べた時の話をしておられましたっけ…10銭のキャラメルと小さい箱で5銭のキャラメルとあって、すずさんが兄妹たちの分も買ったのは5銭の方なんですね。このパッケージのものが映画にも出てきますよ。下の階のアニメ展示の背景画にちゃんと描かれてありました。
 9月3日には森永エンゼル財団の方の「ミルクキャラメルの物語」の講演会が開催されました。私は不参加でしたが、スタッフの方の素晴らしいレポートがツイッター上に投稿されています。
 この他にも今からでも間に合う講演会やイベントがありますので、興味のある方はご検討ください。こちらのページからイベントの確認や申し込み、過去イベントの報告(PDF)がダウンロードできます。
http://www.kure-bi.jp/?cn=100526


 次に昭和初期の地図が展示してあり、この地図の中にすずさんが歩いた道、周作さんと並んだ橋、水原さんの見つめた海…その他諸々があるのかと思うとしみじみします。地図=世界。


 透明感がたまらないカラー表紙の原画の展示もありました。たくさん色が入っているのに落ち着く感じがいいですよね! 鼻息も荒くなります。

 話には聞いていましたけれど、漫画原稿修正はほとんどないんですね。下書きは別の紙に描いてトレースしているそうですが、それにしても丁寧な線でした。
 雲や効果線のためのガイド、配置確認のための線が印刷に出ない薄い青でさらっと描いてありました。他の漫画家さんの原稿ですとスクリーントーンのガイド線として薄い青(水色)を使っていることが多いですが、こうの先生はほとんどスクリーントーンを使っていません。愛国かるたの回で白いアミトーンが使われていたことを、解説で知りました。

 「波のうさぎ」だったか、一度描いた水原さんの横顔を修正してあったので、じっと見てみたのですが、配置を変えて余白の分だけ水原さんの心のうちを想像する余地が生まれた、のかな? 専門家の方に解説していただきたい。

 「大潮の頃」で真っ黒になった鬼いちゃん、すずさん、すみちゃんの表情を印刷されたものよりわかりやすい、と感じたのですが、帰宅してから確認すると単行本でもじっと見ればわかる…ような…読んだ時にはそこまで注目していなかったのかもしれません。まだまだ単行本から読み取れていない情報はたくさんありそうです。

 大好きな径子さんメイン回は、そういえばほとんどふきだしがなかったんだったなあと原画を見てしみじみ驚いてみたり、同じくふきだしのない愛国かるた回は記憶していたより久雄さんの出番が多かったですね。あ、このコマも久雄さんだった、と頷きながら眺めたり。


 解説では構図がもたらす効果や画材の使い分け、表現技法について説明してあり、こうの先生のコメントに加え当時の資料や写真も展示してあるので、解説や資料を見てから該当する原稿をもう一度見てみる、という行きつ戻りつのスタイルで観賞させていただくことができました。ここの台詞と歴史的事実からこの人はこんなことをしていたというのがわかりますよー、とか、そんなことも書いてあったので、何ならこの解説だけまとめた本とか出してほしい勢いです。
 …販売とかされてなかったですよね? 何だか急に不安になってきた。
 写真で印象に残ったのは三角兵舎の角度が思ってたよりゆるやかでした。絵ではパースが効いていたので。

 原画の中ですずさんが漫画の中でアイロンをかけている、ほんの近くに本物の陶製のアイロンが置いてあるのです。原稿の迫力もあり、虚構と現実が混じり合う、ふしぎな展示でした。
 数年前に片渕監督の『マイマイ新子と千年の魔法』が野外上映されるというので京都国立博物館へ行ったのですが、ちょうどその時の展示のテーマが「遊び」で、貴族が双六や貝合わせで遊んでいる図絵と当時実際に使われていた双六や貝が並べて展示されているという構成で、字が読めない/読みたくない人にもわかりやすくて感心したものです。その後観た『マイマイ新子』では山口に引っ越してきた諾子が一人遊びをしていて…。その時のことを思い出さずにはいられませんでした。


 漫画を読んでいても、すずさんってこういう人がほんとうにいたんじゃないかな、という気持ちになってくるんですが、展示されている絵を見ると余計にその気持ちが強くなるんです。鉛筆書きの鬼イチャンの絵はすずさんが描いたのか、こうの先生が描いたのか? すずさんが描いたものを、こうの先生が再現したのでは? みたいなふしぎな感覚。
 なぜそんな気持ちになったのか? ある方がツイッターで言っておられたのですが、すずさんが描いた絵だから、原稿用紙でなくただの白い(原稿用に薄い線の入っていない)紙に描いてあるのだと。なるほどと思いました。

 すずさんみたいな女性っていたはずなんですよね。大変な時代だったからってみんながみんなきびきびした奥さんや女工さんだったのじゃなく、絵を描くのが好きだったり、苦手なお裁縫をがんばったり、一生懸命やってるのにぼんやりしてると言われていたり、千人針を面倒くさく思ったりした人たちがたくさんいたはず。混乱しながらも、そのことを改めて深く感じました。

 朝のうちに大和ミュージアムへ行ってきたので、水原さんの「死に遅れる」心地に以前より近づけたかなあ、いや、どうだろう。戦争のことを考えると誰も彼も死ななくてよかったんだよ! という気持ちと、彼らが戦いに赴いた事実があるから今の私達が生きている世の中があるのだ、ということと板挟みになります。すずさんが言うように、記憶の器としてあり続けるしかない、のか。
 記憶を持つ人はどんどん少なくなっていくので、今のうちに映画が公開されて原作の漫画もこういう作品があるのだと広く知られることは意味があると思います。

 映画の特報に使われた、すずさんが鷺を追いかけるシーンの原画を見ている時に、特報で使われたコトリンゴさんの『悲しくてやりきれない』が頭の中で流れたんです。不思議なことに、特報を見たあとで単行本を読んだ時にはそうはならなかったのですが。
 私が全ページの生原稿を資料を混じえながら見ていってやっと触れた、こうの先生がこのシーンに込めた真髄を、片渕監督やアニメスタッフの方たちはしっかりとつかまえて映像にして見せてくれていたのかなあと思いました。映画も映画の音楽もすごく楽しみです。

 話の順番か前後しますが、原画で見る二河公園のお花見の話も涙が出そうになりましたし、水原さんが泊まりに来た時の話は一層ドキドキしました。こんなにやに下がった顔しまくりだったのかよ水原さん。

 とても可愛らしい晴美さんのイラストの鉛筆画は、こうの先生があるファンの方に寄贈されたのだとか。素敵!
 そもそも鉛筆画はそのままでは印刷に出にくいので、学生の頃に行事用の冊子を作るとき、イメージ通りの濃淡で印刷してもらう、印刷会社の方で調整する手間を減らすためにも一度コピーをして印刷原稿にする方法を教えてもらいました。商業用の雑誌でもコピーやスキャンして原稿を作り印刷にまわすのですが、その印刷用原稿を保管してあるので、この展示のために元の絵を送り返してもらわなくて済んだのだと思います。
 鬼イチャンは鉛筆画の展示でした。

 20年7月以降の背景は左手で描かれているという話は聞いたことがあるのですが、解説によると人物も左手で描いているそうです。下描きは左手で描いた部分と右手で描いた部分があるそうですが、ペン入れは左手で行った、と。(『アートワーク』で確認したところ、背景のみ左手で描かれたようです。勘違い申し訳ありません。)
 そこまでやれば必ず良い作品になるというのでもないけれど、こうの先生が真剣に作品とすずさんに向き合ったからこそ良い作品になったのでしょう。
 『この世界の片隅に』は読んだ時の自分の感情を整理してうまく人に伝えるのが難しくて、何を書いても言葉が上滑りしてるんじゃないかと不安になります。作品に書き込まれている情報をすべて読み取れてはいないだろうなあとも思いますし、それでもいいのだ、その時の自分にしか感じられないものがあるのだからそれを大事に受け止めればいいのだ、とも思います。


  2階中央ロビーで2015年10月に開催された練馬アニメカーニバルのトークショーのビデオを30分ほど見られます。ソファに座ったまま見られるのがたいへんありがたいです。こうの先生と片渕監督の、特報と「冬の記憶」の映像を見ながらのトークでした。映像部分はビデオではカットされていました。私がファンミーティングで見た「冬の記憶」は原作ファンも納得の出来でしたので、楽しみにしていてください(゚∀゚)


 休憩(?)が済んだら1階の展示へ。ここで噂の口紅で描いた真っ赤な原稿を見られます。びっくりしてしまいます。こうの先生が執筆に使われたペンだの墨汁だの画材や取材メモや写真まで盛りだくさん。そしてこうの先生からの来場者へのお言葉ビデオ(*´∀`)

 口紅原稿の写真はこちらのニュース記事にも載っています。

アニメ映画:「この世界の片隅に」11月公開 原画や製作の裏側紹介 呉市立美術館-毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160820/ddl/k34/040/477000c

 ここからアニメの展示になり、背景画の制作過程のビデオが見られます。原画をパラパラ漫画で動かして見ることができました。触れる展示(ㆁωㆁ*)背景画やその元になった写真、解説、絵コンテ、イメージボード、動画の一コマずつの展示。口元を細かく修正していたり、すずさんの手首が実にすずさんらしい角度なんですよね…参った。動画で初めて公開されるシーンもありました。ニヤニヤしてしまう。
 後期展示ではアニメパートが増えるという話も聞きましたが、これ以上どう増やすのか…?

 展示の最後にアンケートとすずさんへの手紙(ハガキ)を書くコーナーがあり、来場者の皆さんが描かれたすずさんの似顔絵も! 素敵空間でした。

 ビデオだけでも1時間近くありますし、展示の量も半端ではないので、何度も言いますがたっぷりと時間を用意してください。


 ようやく展示を見終えて美術館の別館にあるカフェへ。この日はVRゴーグルを使って北條家の中を見学できる企画をやっていました。呉高専の生徒さんが作られたそうです。しかしいっぱいの情報をつめこまれて頭の中がぐるぐるしてたので、VRは遠慮しておきました。ここで酔ったりめまいを起こしてたおれたりしてはいけない…。
 カフェでは美味しいハヤシライスをいただきました。いつも食べているのと違う味で、うまく伝えられないのですが美味しかったです。
http://www.kure-bi.jp/?cn=100519


 友人が遠くの映画館からもらってきてくれたロケーションマップを眺め、体調と日差しを考慮し、入船山記念舘を見学することに。このロケーションマップは呉市立美術館の展示の最後にも並べて自由に取って行けるようになっていましたが、事前に手に入れられてなかったら呉まで来る決意を固めることができなかったので、その節は本当にありがとうございました(*´∀`)

入船山記念館
http://irifuneyama.com/

 艦隊これくしょんをプレイしてない私には「旧呉鎮守府司令長官官舎」はもったいないような気もしたのですが、単行本の巻末の施設一覧にも載っていたし、呉までは滅多に来られないし…。それで見てみたらスペースこそ広くないのですが、貴重な資料がところ狭しと展示されているわ、とても立派な洋館だわで、金唐紙の壁紙や天井が素敵でした。手前が洋館、奥の方は和風建築になっていて、不思議な建物でした。屋根もスレート瓦と日本瓦で葺き分けていたのかなあ。
 金唐紙については歴史民俗資料館の方で詳しい解説があり、木彫りの円柱状の型に紙を押し付けてブラシで叩いて模様を浮き上がらせ、錫箔と塗料を塗るという手間暇かかった美しい工芸品で、かつてはバッキンガム宮殿にも使われたそうです。歴史的には金唐革→金唐紙だそうなので、ここから印刷物の箔押しに小型に進化していったんでしょうか?
 軍港・呉のメインストリートというミニ企画展も、昔の呉の写真と今の写真とを並べてあって、とても面白かったです。この後その写真の場所を実際に通りがかりました。資料館→散策の醍醐味です。


 さて時間いっぱい聖地巡礼しようと思ったものの、足の裏が痛くて旧海軍病院前から小春橋まで歩くのがやっとでした。ほとんど半日歩き通しでしたから。やはり大和ミュージアムで自転車を借りた方が良かったかしら。でも美術館の周りはけっこうな坂道だったし…二人以上で連れ立っていくならタクシー頼んじゃったのにな…。

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 国立病院(旧呉海軍病院)前のバス停で、すずさんをパチリ
 アプリはこちら。
行けるアニメ!舞台めぐり
http://www.butaimeguri.com/


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 すずさんと周作さんがデートした小春橋より、灰ヶ峰を望む。最良の現実、という会話がすごく好きなので、ここだけでもどうしても行きたかったので、来られてとても嬉しいです。


WEBアニメスタイル
1300日の記録[片渕須直
第85回 小春橋、屑鉄の山、潜乙、呉駅集合口
http://animestyle.jp/2014/06/23/7427/


 呉での散策はここまでです。今回は広島をまわることもできなかったので、いつかまたゆっくりと行けたらいいのですが。しかし短い時間ながらも充実した一日でした。
 読んでいただいてありがとうございます。

【全マンガ原稿展示!】『この世界の片隅に』(こうの史代)の特別展がすごい!(呉市立美術館)【2016年11月劇場アニメ公開】  -  このマンガがすごい!WEB http://konomanga.jp/special/74026-2