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往きて迷いし物語

もるあきがトールキン教授やPJ監督に翻弄されるブログ・『この世界の片隅に』備忘録

『ビルボの別れの歌』をわかりたい

 J.R.R.トールキン教授の代表的二作品、 『ホビットの冒険』(以下「ホビット」)、『指輪物語』(以下「指輪」、ページ数は評論社文庫版のものとする)を初めて読んだ時に読者が遭遇するのが、意味ありげな設定や詩が出てきては詳しく説明されずに次のエピソードへ進んでしまう、という現象なのですが、それらの内容がわからなくても物語のすじを楽しむことはできるのです。
 しかしその後『シルマリルの物語』、『終わらざりし物語』まで読んでから『ホビット』、『指輪』へ戻ると、「ここはあれのことを言っていたのか、だからこの詩が出てきたのか」としみじみ面白いのです……が、二周目を終えると「自分はちゃんとこれをわかっているのだろうか? わかったつもりになっていないだろうか?」といった疑念もまた湧いてくるのです。

 そんな読者のためにトールキン世界を理解するための解説書も何冊も出ているのですが、ここがわからない、納得または理解するためにどの本を読めばいいのかわからない、という具合に、目当ての本を探しあてて読むのがたいへんです。気になった解説書はどんどん買っておいて読めなくても目次には目を通しておく、できれば読む、が正解への道でしょうか。これがなかなか難しい。さらに私の場合は英語をちゃんと読めないという障害が立ちふさがりますので、ついつい楽をしようと先人の研究成果をネットで探して読んだり、ツイッターで皆様から意見をいただいて終わってしまうのですが、物語をできるだけ自力で読めるようになった方がいいのではないか、と思わないでもないのです。
 また、これはみんなわかるだろう、解説するまでもないな、と思われたのか、解説が見つからないこともありまして、『ビルボの別れの歌』はまさにそのパターンなのです。わかりたい。

Tolkien Writing Day』の企画のために読む本を探していた私は、フォロワーさんが旅行先で買いたい本の一冊としてあげた『ビルボの別れの歌』の原書を、そういえばちゃんと読もうとして放置していたなあと思い出し、本棚から『BILBO'S LAST SONG』(以下BLS)を引っ張り出しました。私が日本語訳版を買おうと思った時期にはすでに『ビルボの別れの歌 灰色港にて』(岩波書店刊、脇明子訳 ポーリン・ベインズ絵 以下「別れの歌」)は絶版で手に入らなかったので中古で購入するよりないのですが、なんとなくタイミングを逃しているところです。図書館で閲覧することもできますが、原語版のものよりふたまわりは大きくて絵の細部まで見られるし、なんといっても日本語なのです。やっぱり中古でいいから欲しいですね。ちなみに英語の理解が難しい部分の日本語訳を図書館で筆写したメモが私の手元に少しあります。

 この本を再び読んでみようと思います。

 この絵本は一篇の詩とポーリン・ベインズ氏によるイラスト(詩の流れにそったものと『ホビット』のストーリーににそったもの)、巻末にはイラストを描くにあたり『指輪』『ホビット』のどの部分を参考にしたかが書いてあります。
 この詩はビルボが西へ行く前に灰色港で書いたものとされています。なので、日本語訳版には副題として「灰色港にて」とあるのですね。4行12連の詩です。


日はもうかげり
目もおぼろになったけれど
わたしはまた旅に出る
長い長い旅に
」(別れの歌)

"
Day is ended,
dim my eyes,
but journey long
before me lies.
"(BLSp8)

 日はかげり目もおぼろに、の言葉にはビルボも指輪と離れてすっかり年老いたなと映画『ロード・オブ・ザ・リング』のイアン・ホルム氏が演じた姿を想像してしまいますが、『指輪』のビルボはこの詩が完成する数日前の3021年9月22日にフロドと再会した折、「ところでわたしは今日トゥック翁を追い越したよ! そこでこれはけりがついたと。それで今はもういつでもまた旅に出かけられるつもりだよ。お前も来るかね?」(評論社文庫『新版 指輪物語9 王の帰還 下』灰色港p327)などと発言しており、気持ちはまだまだ元気な様子です。小馬に乗って居眠りしつつ、詩を書けるぐらいには頭のはたらきもしっかりしているのです。『指輪』のホビットたちの悲しい別れやまた詩のこの部分だけ読んでみますといくらか寂しい気持ちになりかけますが、ポーリン氏のイラストのビルボがじつにかくしゃくとしているせいもあり、「わたしはまた旅に出る」"but journey log before me lies"という言葉にはけして後ろ向きの思いばかり込められていたわけではないな、と感じることができます。イラストによってより多くを感じられるのが絵本のよいところですね。

 以下、詩には中つ国への別れの言葉と海の描写が続きます。
"Farewell,Friends!I hear the call."(BLSp10)
"Farewell"に関しては私はもうトーリンを思い出してしまって悲しくてダメです。"Friends"には中つ国に生きているものだけでなく死んでいったものも含まれているのでしょうね。
 呼ぶ声が聞こえるというのはレゴラスが鴎の声を聞いて心を囚われたような気持ちでしょうか? しかしエルフのレゴラスと違ってホビットには海を恋しく思う理由もなければ馴染みもないので、新しい旅が楽しみでならなかったビルボの気持ちの表れかと思います。
「だいたい海を見たとか、海を船で渡ったとかいうホビットはまれだし、戻って来てその話を聞かせてくれるホビットといえば無いにひとしかった」(『指輪』1 旅の仲間 上1 序章一ホビットについてp19)とありますように、物語の主人公であり読者にとっては初めて出会うホビットであるところのビルボが(それにフロドも)ホビットという種族にはとても珍しい例外中の例外であることは『シルマリル』(評論社刊『新版 シルマリルの物語』以下「シルマリル」)のフィンウェとミーリエルがじつに例外的なエルフであったことを思い起こさせます。
 この後もビルボは詩の中にいきいきと波しぶきや風をはらんだ帆を描き出しているので、新しい旅、中つ国では最後となる旅と初めての航海を楽しみに興奮している様子が伝わってきます。

 注目したいのは"the wind is east,"(BLSp16)との一行で、『終わらざりし物語』にヌーメノールの船があまりにも行く先を遠くへ求めすぎた際には逆風が吹いて航海が困難だったとあり(第二部◆第二紀 Ⅱアルダリオンとエレンディス)、『シルマリル』にトゥオルとイドリルの行方を求めたエアレンディルが逆風に追われたとありますように(第二十四章 エアレンディルの航海と怒りの戦いのこと)、伝承の物語の中で吹く風には〈アルダの風の王〉たるマンウェの意志を感じることができます。
 トールキン教授がビルボを通して「エアレンディルの歌」(『指輪3』旅の仲間下1 p44-52)にシルマリルとエルウィングを伴ったエアレンディルをアマンへ運んだ東風のことを書き、この最後の歌にも東風のことを書いたのは、マンウェが長年中つ国を安らかにするために尽力してきたエルロンド卿やガラドリエルの奥方たちエルダールの帰還を拒んではいない、と伝えたかったのではないかと思います。

 さて、6連目の最後の行の理解が私には難しいのです。

"
Shadows long
before me lie,
beneath the
ever-bending sky.

But
"(BLSp18-20)

 とりあえず自力で読んでみましょう。影横たわると言っても指輪戦争終結後なので、かの忌まわしい敵のことではなく旅路を行くビルボの前に長い影が横たわっている、影が長いのは朝方か夕方、西へ向かって旅しているので、朝日でしょうか。「夕方からずっと夜をこめて、一行はホビット庄の真ん中を通って行ったのですが、」(評論社文庫『指輪』9 王の帰還 下灰色港p329)とありますので、朝日ですね。こんなふうに夜中も馬を歩ませていたのならビルボが居眠りするのも無理はありませんね。

 問題は次です。えー、変わることなく曲がっている空の下……わからないです。(つд⊂)
 「bending sky」でネット検
索してみるとなんだか素敵な曲がヒットします。(ユーチューブへのリンクなので曲が流れます。ご注意ください)
 画像検索してみればイメージを掴めるかとおもったのですが、どうも難しいようですね。アルダやトールキン世界に共通の言葉でしょうか?『THE LORD OF THE RINGS』の原語版をスマホKindleにDLしてあるので、本文検索してみたものの、そのままの言葉はなく、「bend」では地形や道のりの説明しかヒットしません。「sky」でも普通に空の描写があるのみでしょうか。今回の調べものとは関係ないですが「東の空」は何回も出てきますね……などとつい脇道にそれてしまいがちなのもトールキン読書のこわいところです。
 ところでKindle版は3冊セットに追補編も入っていてセールになるとなお安いので、ざっと検索したり原語を確かめたりするのには打ってつけです。

 ここで脇氏の訳を見てみます。


ゆるやかに湾曲する空の下には
どこまでも長い影が
伸びているけれど
」(別れの歌)

「ゆるやかに湾曲する空」おお、曲がっている空と訳するよりはずっとわかりやすい!いや、やっぱりわからない! この、わかっていないのにわかってしまいそうになる感覚、伝わりますでしょうか。脇明子氏もそうなのですが、瀬田貞二氏や田中明子氏の日本語の表現が素敵すぎて、よくわからないにも関わらず、なんかそういうことなんだな、と思ってしまうことがよくあるのです。たいへん頭の悪い文章で申し訳ありません。

 ではイラストに助けを求めてみましょうか。このページのポーリン氏のイラストには丸みを帯びた丘の上から海を眺める一行の姿が描かれています。視点を変えてみると、丘が丸い、そのために空も円弧で切り取られて見えるということなのかしら。
 イラストの参照元としてポーリン氏が引用したとしているのは"7.Dawn,29th September 3021(S.R.142
1):'They came to the Far Downs...and looked on the distant Sea.'(ROTK,p.310)"(BLSp37)「そしてかれら一行はホビット庄を通り過ぎてしまうと、白が丘連丘の南の麓を回り、向が丘連丘に来ました。それから三つの塔に出て、遠くの海を眺めました。そしてとうとう一行はミスロンドすなわちルーン湾の長い入江にある灰色港にやって来ました。」(『指輪9』王の帰還 下 下p329)となっています。S.R.はホビット庄暦のことなので、『追補編』の代々の物語の年表で確認できますね。指輪戦争終結のおよそ2年後の9月21日にフロドとサムは袋小路屋敷を出発し、22日にビルボと合流、29日に灰色港に着いています。この詩をビルボがサムに渡したのは(そうでなければ詩が残っているのはまったく不思議ですから)、この29日でしょうね。
 英語版での引用は一部省略されていますので、念のために"Far Downs"の訳語も追補編の索引で確認しておきましょう、向が丘連丘、Far Downs、よし、合ってます。位置関係も改めて地図を見てみたくなったので『「中つ国」歴史地図 トールキン世界のすべて』(評論社  カレン・ウィン・フォンスタッド 以下「歴史地図」)の出番です。私は評論社文庫をバラバラに手に入れたので文庫の10冊セット版についている大きな地図を持っていなくて、また、10冊のどこにどの地図があったのか把握しきれていないので、これがとても便利なのです。『王の帰還 下』に乗っている地図は小さくてほとんどつぶれてしまっているのですよ。
 さて『歴史地図』でも英語の名詞は巻末のインデックスに併記されています。これは英語版の方がオススメだと灰色の魔法使いが言っていました。確かにこういう調べ物の時には英語版が手元にあるのがどんなにかいいでしょうか。HoMEや研究書は英語で書かれていますし……。
 記述通り、向が丘連丘"Far Downs"は白が丘連丘と塔の間にあります。その先には灰色港です。ホビット庄と港に南北の差はあまりなく、ほとんど東西にまっすぐ並んでいるんですね。記憶していたよりもずっとフォルリンドンとハルリンドンとが張り出していて河口が狭くなっていますから、港近くの丘の上からなら水平線が丸く見えるようなこともあるかしら? という推理をしてみましたが、塔に登らずにそういった眺めを期待するのは無理そうです。

 このままでは自分にとっての正解が出せない、出せないというネタでも仕方ないのか……と諦めかけたそのときふと『シルマリル』に灰色港からの旅立ちの記述があったことを思い出しました。ここまで書いてようやく思い出したのです。

「そしてかれらは、湾曲して遠ざかってゆく新しい世界を下方に、古い道、即ち西方に至る記憶の道は、あたかも風と鳥の行き交う空中(これも今は世界と同じように湾曲してしまった)に架けられた、目には見えない橋のように続いて、」(『シルマリル』アカルラベースp464)

「秋の夕暮れ、船はミスロンドを出航し、やがてついに、湾曲せる世界の大海原は船の下方に遠ざかり、円い空を吹く風ももはや船を騒がせず、この世界を包む霧の上なる高層の大気の上を運ばれ、船は古の西方王土に入っていった。」(『シルマリル』力の指輪と第三紀のことp496-497)

 湾曲する空とはただ単に空が丸く見えたといった話ではなく、ビルボがアルダの歴史をも詩に織り込んだのでしょうか。「湾曲する空」と「円い空」は同じものでしょうか、別のものでしょうか。
 円い空、のようなものについて以前グワイヒア氏のトールキン研究サイト「ミドルアースの風」様で目にしたことがあったような、そう、エルフ語の「空」と「天井」の関係について読んだことがありました。さっそく確認いたしますと、サイト内の「エルフ語講座-人名-エルロンド-エルロンドという名の内にある小宇宙」や、「トールキン本 正語標-指輪索引-タルメネル」の項に詳しくありますが、”rond=ドーム=天井=空”、”空はドーム状のものを支えているという考え方”が、エルフの言葉に入っていて、エルロンドの名前にも入っていたのですね。
 エルロンドの名前に入っていたということは即ち世界が湾曲する前から「円い空」があったということでしょう。ナルゴスロンドもそれよりずっと前にありましたもの。「円い空」と「湾曲する空」は別物であると言っていいと思われます。ではやはりビルボが世界が湾曲させられたと同じく湾曲させられ、今なお湾曲する空についての知識を持っていたのでしょう。

 タルメネルの項を見ていてヒントをいただいたのですが、そもこの言葉はビルボが「エアレンディルの歌」の中に用いた言葉なのです。タル、メネル共にその意味は『シルマリル』の
「クウェンヤ語及びシンダール語の固有名詞を構成する主要部分」にあります。tarは「高い」' high'、 menelは「天空」'the heavens'の意味です。もちろん天国ではなく天空の方のheavenですね。"内は『The Silmarillion』からの引用です。これもKindleでセールの時に買いました。
 また、『THE HISTORY OF MIDDLE-EARTH』のvolume7『THE TREASON OF ISENGARD』をTarmenelで引くと、'High Heaven'とあり、グワイヒア氏が書いておられたように「エアレンディルの歌」の推敲を見ることができます。教授のこだわりが発揮されていて、本当にちょっとした部分を何度も書き換えたり戻したりしてるのですよ。ビルボもこんな風に言葉をためしていたのでしょうかねえ。

すると海のかなたの別世界から
夜中に烈風がたちまちおこった。
これ、タルメネルの強風で、
死神のふきつける息のように、
定命の者の通らぬ道へと
刺すような風が、かれの船を運んだ。
絶えて航く者のない灰色の荒海を
今度は東から西へとかれが流れすぎた。
」(『指輪3』旅の仲間 下1p47)
 さきほど「東風」について述べた箇所です。トールキン教授がビルボの作った詩にわざわざ東風のことを入れさせたように、空のことも入れさせたのです。ビルボのエルロンド卿やエルフたちへの好意が入っているのではないかなあ、なんて思ったりもします。トールキン教授の意図としては、ビルボの知識欲が強く、エルフの言葉を知っていることを示したかった、ヴァラールの意思のしるしを散りばめたかった、などがあるのでしょう。

 なので、ここで驚歎すべきはビルボの知識と視界の広さなのかなと思います。主語は道に伸びた影ですが、その上にある空、高層の世界を、エルフやアイヌアの目で見てきたかのようにさり気なくほのめかしているのです。小さなホビットがこのような高い視点、広い視野を得たのは、ガンダルフに誘われ冒険に飛び出し世界の広がりを知ったせいでしょう。伝承の大家エルロンドと彼が治める裂け谷のエルフらに教えられたせいでしょう。そのことは私たちのよく知る二つの物語に書かれています。

 ホビットは誰ひとり行ったことのない西の国へ旅立つのです。船に乗って。恐ろしくないはずがありません。『旅の仲間』にサムが舟を怖がる様子が書かれており、比較してみると『ホビット』でたるにしがみついて川下りをしたビルボの特異さ(水やふねをまったく恐れていない)が際立ちます。では、この詩に書かれている海への憧れとも取れる描写はビルボの強靭さと好奇心からくる新しい冒険への期待のみによるものでしょうか? 詩の続きにその答えはかかれています。

"
Shi, my ship!
I seek the West,
and fields
and mountains
ever blest.
"(BLSp28)


船よ わたしの船よ!
さあ 西をめざして
いこう
幸いに満ちた野山が
待っているから
」(別れの歌)

 海の向こうに西方王土がある、そのこと自体をビルボはガンダルフやエルフたちから教えられたのではなかったでしょうか。ビルボがこの船出に不安を抱いていないのは、彼らと彼らの言葉を信じているからなのではないでしょうか。それは知恵と呼ばれるものです。

 物語の最後の船出の部分はサムの視点で記されており、この旅はホビットたちの永遠の別れなのだ、せっかく皆が幸せに暮らせると思ったのに、と読者である私もサムのように嘆いてしまうのですが、この詩はビルボの心の勇ましさと知恵と好奇心とがきっと悲しみを乗り越えさせてくれることを教えてくれるのです。ビルボの薫陶を受けフロドと共に苦しい旅をしてきたサムが乗り越えられないはずがありましょうか?

 この詩は次のように終わります。

"
Farewell to
Middle-Earth at last,
I see the Star
above your mast!
"(BLSp30)

ついに さらば
中つ国よ
帆柱の上に
かの星が見える!
(この部分は日本語訳が手元にないため、私訳です(つд⊂))

"at last"を訳するにあたり、英単語の正しい使い分けを勉強してすっきり英会話を参考にしました。英語が苦手なので、たびたびこういった確認が必要なのです。

「at last : とうとう、やっと
 長い間、努力や我慢を重ねて、ようやく何かが起ったり達成できたり
 したときに用いる表現です。
 この表現は良いことが起ったときに使うもので、嬉しいと感じている
 ニュアンスを含んでいます。」

 そう、この旅立ちは良いことなのです。ビルボとフロドは中つ国を安らかにするために大きな犠牲、自分自身を捧げたそれゆえに西の国へ渡ることができるのです。彼らは恐ろしい力に傷つけられはしましたが、だからと言って怯えて安全な場所へ逃げ去るのではなく、自身の選択と権利によって浄福の国へ行く、この詩はそのことを改めて私たちに伝えてくれるのだと思います。


おわりに
 この記事は『Tolkien Writing Day』の主旨に賛同して書きました。初心者である自分向けに、本来なら割愛すべき部分まで細かくメモを書いたので読みづらくなってしまい、申し訳ありません(;・∀・)以前に読んだ時よりはわかることができたと思います。HoME読書会で煉獄について学んだことなども結論に影響を与えたかと思います。Tolkien Writing Day企画者のsayawen氏とすべてのトールキンファンの皆様に感謝いたします。
ヽ(*´▽`*)ノ

2016年4月8日追記
 別れの歌の「湾曲する空」"bending sky"とシルマリルの「円い空」"round sky"が原語で表記わけされていることを確認しました。
"In the twilight of autumn it sailed out of Mithlond, until the seas of the Bent World fell away beneath it, and the winds of the round sky troubled it no more, and borne upon the high airs above the mists of the world it passed into the Ancient West, and an end was come for the Eldar of story and of song."
(The Silmarillion)

 誤字を修正しました。
誤→正
LOAD→LORD
イラストの引用箇所→イラストの参照元
湾曲した空→湾曲する空、世界が湾曲させられたと同じく湾曲させられ、今なお湾曲する空
記憶道→記憶の道
知識と探求心→知識欲

f:id:momomomo1232:20160409000921j:plain

 日本語版届きました〜。゚(゚´Д`゚)゚。

2016年4月12日追記

 以前よりツイッターでフォローしていたエルフ語ボットのペンゴロド氏のツイートによりmenelが天蓋と訳されていることを知りRTしたところ、出典や記述のある文書についての情報を教えていただきましたので、経緯を載せておきます。関係者各位、ご教授及び掲載許可ありがとうございました。

A Elbereth Gilthoniel o menel palan-diriel le nallon si di-nguruthos! ああ、エルベレスよ、星々を輝かせる方よ、天蓋よりはるかな眼差しを向ける者よ、汝に今死の恐怖の下にいる我は叫ばん!
ペンゴロド (@pengolod_bot) 2016年4月9日

twitter.com

 ペンゴロド氏(@pengolod_bot Pengolod_bot)は1時間ごとに登録された文章をつぶやくタイプのボットなので、このツイートを目にしたのは本記事をアップした数日後のことでした。『指輪物語』と『追補編』に出てきた詩は調べたつもりだったけれど日本語訳があったのを見落としていたのか…? と、確認しているところへカメハメ氏((@Katsuobushield Days of Sadden Flame PartIV)より、出典は伊藤盡先生の『『指輪物語』エルフ語を読む』(青春出版社・絶版(T_T))であることを教えていただきました。

@momomo1232 伊藤先生の『エルフ語を読む』にある訳文ですね。『二つの塔』の「サムワイズ殿の決断」でサムが思わず口にした歌ですけど、本編ではエルフ語の文のみで訳文は出ていないので、伊藤先生が訳されたのかもしれません。
— カメハメ (@Katsuobushield) 2016年4月9日

twitter.com

 伊藤准教授はPJの映画でも辺見葉子教授、高橋勇準教授らと共にエルフ語の監修担当されています。(映画『ホビット:思いがけない冒険』でのお仕事|ブログ|伊藤 盡|教員紹介|信州大学 人文学部)『中つ国サーガ読本』(洋泉社)で触れておられた『フーリンの子どもたち』日本語版の出版はどのような状況なのでありましょうかソワソワ。

 サムはエルベレスの歌を裂け谷で聴いていたので、この場面で口をついて出たのですが、正確には裂け谷で出てきた歌とは少し違う…短縮バージョンというか細部まで記憶してなかったような感じになっています。ぐう細かい。

 『エルフ語を読む』復刊ドットコムに登録されています。
『『指輪物語』エルフ語を読む(伊藤盡)』 投票ページ | 絶版・レア本を皆さまの投票で復刻 復刊ドットコム
 よろしくお願いします。

 そして翌日、disp(t)氏((@mithrimnemui)より"Parma Eldalamberon"のmenelの項に"the heavens, apparent dome of the skyとの記述があることを教えていただきました。

 "Parma Eldalamberon"(Eldalamberon Home PageEldalamberon Home Page)はエルフ語の研究誌なのですが、これも17号(17巻?)は絶版です…。zushio氏のブログParma Eldalamberon 17 - 続・トールキン関連本を読む ( トールキン作品のネタバレ有 )に詳しいです。

@Katsuobushield @momomo1232 Parma Eldalamberonの17にmenelの項目があって、the heavens, apparent dome of the skyてのがありましたです。
— dispt (@mithrimnemui) 2016年4月10日

twitter.com

 apparent dome of the sky…半球の見かけの空…天蓋、円い空ですねえ。

 HoMe4"THE SHAPING OF MIDDLE-EARTH"のp243~251に教授の描いた世界の図が載っています。(本記事を書いている途中エルロンドの名前の語源を確認するために11巻を買ったつもりが空の形のことばかり頭にあったので4巻を買ってしまったんですが、思いがけず役に立ちました。)世界が湾曲する前の図は虚空Kuma(uの上に')の中に球状の層になった世界があり、外側から外なる海Vaiyaヴァイヤ(『シルマリル』ではエッカイア)、その内側にひとまわり小さい光Ilmenイルメンの層、さらにその内側にある球体の上半分が空Vistaヴィスタで下半分が地盤ambarアンバー、このヴィスタがドーム状の天空です。この図どこかで見たなあと思ったら『「中つ国」歴史地図』の概論(p9)にありました。こちらは線も名称も整理されていて、わかりやすいです。さて、これらの図を見ると世界が湾曲した後の空は、湾曲したといえば湾曲してるのだけれど、どちらかといえば延ばされたような印象もあります。半球状だったものが球体を覆うようになったわけですから。しかし世界が湾曲するのに伴い空が変形したのであればやはり「湾曲する空」とするのが正しいな、と思います。もし「延びた空」などという表現にしてしまうと、この世界の歴史からは遠ざかってしまいますよね。で、湾曲する前とした後どちらも空が世界を覆っていますので形は変われども円い天井がそこにあります。我々の頭の上のずっと上の方に。

 地形のことはいずれまた『HoMe』を読んで考えてみたいですが、とりあえず今回の記事の更新はこれで終わりにしたいと思います。(新情報が出てこない限りは!)というのも、次なる読書会が控えているのです。disp氏(諸事情により現在はdispt氏(@mithrimnemui))主催のHoMe読書会に参加する予定なのです。あとがきにも書いていたHoMe読書会とは? 簡単な説明をさせていただきます。

 トールキン教授の没後、息子でありトールキン研究者であるクリストファー教授が中つ国関連の遺稿を整理し、中つ国の創世記から指輪物語の時代までをいくつかの物語にした『シルマリルの物語』、物語として完結はしなかったものを部分的にまとめた『終わらざりし物語』、そしてそれらに入りきらなかった初期草稿や設定、地図などのメモをまとめた『The History of Middle-earth(中つ国の歴史)』(HoMe)を出版しました。『HoMe』は3分冊と12巻本とありまして、書き込んだり付箋を貼ったりするなら12巻本の方が安くて良いです。紙質はそんなによくありませんが気楽に扱える利点もありますし厚さの割には重くないので持ち歩きもできます。各巻の内容を知りたい方は読書会のサイトからまとめに飛べますのでそちらを参考にしてください。紹介しているサイト様もたくさんあります。たとえば指輪物語の草稿部分だけ読みたい方はシルマリルを読まずにいきなり『HoMe』に行くルートもありなのです。1巻から順番に読まなくてはならない性質のものではないので。おすすめは9巻『SAURON DEFEATED』のエピローグです!

 期間中に毎週『HoMe』の決められた範囲をみんなで一斉に読んで考察したり感想を言ったり疑問をつぶやいたり絵を描いたり…というのがHoMe読書会です。こりゃすごい! だの、ここまで読めた、だのつぶやくだけでも他の方の刺激になって参加者の読書欲が増進されますから、知識がないとついていけないのでは…という心配はいりません。不安なら早めに予習しておくのもありです('v')
 読書会のテーマは第一回目が「ゴンドリンの陥落」、第二回目「アスラベス、フィンロドとアンドレスの問答」でした。煉獄についての話があったのもこの二回目です。そして次回第三回目のテーマが「フィンウェとミーリエル、フェアノールのシボレス」となっております。この辺は『シルマリル』の該当部分を読んでから『HoMe』にいった方がいいでしょう。5月中旬頃開始予定、第10巻"MORGOTH'S RING"のThe Eariest version of the story of Finwe and Mirielフィンウェとミーリエルの話の最初期版、p205~233と第12巻"THE PEOPLE OF MIDDLE-EARTH"のShibboleth of Feanor フェアノールのシボレス、p332~366を読みます。興味のある方はこの機会にぜひ一緒に読みましょう。

 誤記の訂正です。
誤→正
フェアノールの慣習→フェアノールのシボレス(合言葉、符丁といった意味合いの言葉)
なお、この誤記(誤訳)は私個人のミスであり、読書会の主催者様や他の参加者様の関与はいっさいございません。かさねがさね申し訳ありません。


2016年6月15日追記

 英語たん@eigotanさんのツイートで聖書の中の東風に特別な意味があることを知る。

https://twitter.com/eigotan/status/742759300741758978

 取り急ぎ、検索しました。

 聖書検索-「東風」を探す
http://words.kirisuto.info/%E6%9D%B1%E9%A2%A8-srch.html

→確かに災厄をもたらす記述が多い、モーセのために海を割った時以外はほとんど悪いことか起きている?

 映画に見る聖書〈ショコラ〉
http://www.shimizugaoka.com/blog3/2012/03/12/%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%AE%E8%81%96%E6%9B%B8%EF%BC%9C%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%B36%EF%BC%9E/
 ブログの概要
http://www.shimizugaoka.com/blog3/about/

→東風には神の審判の意味がある、と。なるほど、マンウェの裁定につながる…。トールキン作品の中で吹く風について調べてみるのも面白いかもしれませんね。